山崎先生、
あれからもう10年ですか、早いものですね。
訃報を知り、あの時アタシは仕事をしている手が止まりました。
今でも信じられません。
先生の本との出会いは、図書館で「白い巨塔」という“文字”を偶然見かけてから。
ドラマで何となく記憶があったのですが、原作を読んで見ようかと思ったのがきっかけでした。
世の中の組織のあり方、人間関係、医療とは、家族とは、母親とは。
あの長編は、当時20代のアタシにとって鮮烈な影響を与えて頂きました。
そして「暖簾」「ぼんち」は、ご出身地の大阪商人の逞しい姿を生き生きと描かれており、あの時代の天下の台所を垣間見ることができました。
吉本興業の創業者、吉本せいのド根性な生き方を描いた「花のれん」は、現代の女性が見習うべきヒントにもなり、楽しく拝読しました。
戦争を知らないアタシは、当時、国内だけではなく中国・アメリカに住んでいた日本国民や、兵隊のシベリヤ抑留でのご苦労を知るはずもないのに、その場にいるような感覚で受け止め、しばらくはショックで何も手につかないこともありました。
それほど、先生の文章はアタシの心に訴えてきたのです。
戦争の惨状、醜さ、人が人でなくなることの恐ろしさ。残念ながら現在それが続いています。
毎日、死ななくていい人たちの命が失われています。
戦争を起こそうとする人に、先生の本を与えられる方法はないのか。
そして、いかに先生の本がすばらしいかをたくさんの人に伝えたい。
先生が晩年に書かれていた「約束の海」は未だに読めていません。
未完のままになっている物語のその後を勝手に頭で創造するのを避けてのことです。
過去の文豪のように、残された者に何かしらの課題を託されたのかな。
もっと先生に感謝の気持ちをお伝えしたかったのですが、拙い文しか書けず申し訳ございません。
アタシはこれからも先生の本を何回も繰り返し読んで生きていくことでしょう。
草々
山野 幸